« 2007年7月 | トップページ | 2007年9月 »

読書記録

■『模倣犯』(宮部みゆき)
夏休みだし、普段は読めない長編でも読んでみよう……そう思って手にしてみた。
第2部はちょっと退屈。
だが、第3部はおもしろかった。止めるに止められず夜中の3時くらいまで読んでしまった。徹夜するのはさすがにきついだろうと思ってそこで止めたのだが、独身で時間が自由になる頃だったら、最後まで一気に読んでしまったかも知れない(おそらく6時くらいには読み終えただろう)。
途中で止められない……『パラサイト・イヴ』(瀬名秀明)を読んだときもそうだった。アパートで一人布団に入って、真ん中くらいから最後まで一気に読んだ記憶がある。そんなことが出来たのだから、まだ独身だった頃なのだろう…。
読了まで15~20時間は費やしていると思うが、それだけの価値はあった。

■『兎の眼』(灰谷健次郎)
恥ずかしながら、初めて読んだ。
教員(特に小学校)には必読の書として紹介されているのを何度となく目にして、教員をやる以上は読まねばなるまいと考えていたのだが、読もうとして本屋を探すとちょうど置いてなかったりするなど、「縁がない」一冊であった。
確かに悪い話ではない。
ただ、「古い」と感じてしまった。
背景となる時代が、ではない。時代が変わっても人間の心はそう変わるものではないから。
私が「古い」と感じたのは、この本が出版されてからの30年間でこれを超える物語がいつくも出版されている、ということだ。より高い山を知ってしまったら、低い山が物足りなくなるようなもの。この程度の感動本はいくらでも転がっている。それが現代だ。

■『バッテリー』(あさのあつこ)
少年少女が主人公の物語には感情移入するのが難しくなってきた。
彼らが知り得ない感情を知りや持ち得ない体験を持った身としては、彼らが主人公の物語は物足りなさが残る。
それでもこの作品は結構気に入った。
主人公の少年が魅力的だから。決して「正しく」「真っ直ぐな」少年ではない。若者特有の生意気さが前面に出ていて、実生活ではあまり接したくないタイプだが、「若さ」「青さ」が感じられていい。
ただ、続編も刊行されているようだが、それまで読もうとは思わない。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

蛇行する知恵

Rimg0170

俵万智「トリアングル」を読んだ。

主人公の独身女性が、若い独身男性と年上の妻子ある男性との二つの恋愛を経験し、結局妻子ある男性の子供を産むことを決心する、という話である。
実際作者の俵万智自身がシングルマザーとなっており、どの程度「私小説」であるのかという興味を抱いたが、正直言ってそうたいした小説とは思えなかった。暇つぶしに読むなら悪くはないのだが、出会いに感謝したくなるほどの小説ではない。

だが、次の箇所は非常に印象に残った。この部分との出会いは感謝したいと思う。

 釧路川は、蛇行する川の代表選手。その姿を初めて写真で見たのは、たしか小学校の地理の教科書でだった。水でできた蛇が、巨大なS字をつなげたかっこうで、湿原を這っている。
「この蛇行に意味があるんです。一見、無駄な寄り道をしているようですが、とんでもない。蛇行のおかげで、湿原の隅々にまで、水が配られているんですから」
 湿原を研究して三十年という湿原博士は、力をこめて言う。
「人間がやってきたことは、A地点からB地点への最短距離を、直線で結ぶようなことばかりですな。自然は、蛇行するという知恵を持っています」

確かに人間がやってきたこと・目指したことは「最短距離を、直線で結ぶ」ことばかりだ。
目的達成のために、無駄(と思える)ことを排除し、合目的的であることを良しとしてきた。

その結果はどうなったか。

蛇行という「無駄」を排除して最短距離を求める社会は忙しくなるばかり。
忙しさは「心を亡くす」。他人を思いやる余裕はなくなり、他人の痛みに鈍感になる。
まだ社会に「蛇行」があった頃、人と人の間に存在していた「水」、人々の心の中にあった「水」は消えようとしている。
潤いのない社会が住みやすい場所であるはずがない。

それでも最短距離で進もうとしている目的地が「幸せな社会」であると信じられるならまだいいのかも知れない。
だが、目的地が「金儲け」であったことはもはや誰の目にも明らかだ。
金儲けと幸せは違う。
儲けた金をいくら使っても失われた「水」を買うことはできまい。

「心の水」はもう戻らない。
それと引き換えに「直線の社会」は一体何を生み出したのだろうか。

| | コメント (0) | トラックバック (3)

« 2007年7月 | トップページ | 2007年9月 »